日本産食品輸入規制強化から学ぶ。台湾ビジネスのマクロ環境分析。

2015-05-16

台湾政府は東京電力福島第1原発事故で汚染された食品の輸入を防止する策として、5月15日より日本食品に対する新たな輸入規制の強化を開始しました。今回の日本産食品の輸入規制強化の通知は、台湾側から4月15日に発表しており、予定通りに輸入規制強化が実施されたことになります。

台湾は既に、福島、茨城、群馬、栃木、千葉の5県からの食品に対して輸入を禁止しています。これに加えて、今回の輸入規制強化では、以下の2点が新たに追加されました。

点矢印画像岩手県、東京都、静岡県、愛知県、大阪府など一部都府県の水産品や茶類、乳幼児向け食品やビスケットなどには放射性物質の検査証明書の添付。
点矢印画像日本から輸入されるすべての食品に都道府県別の産地証明書を添付。

日本から台湾への農林水産物の昨年の輸出額は837億円で、香港、米国に次いで三番目に多いだけに、今回の規制強化には多くの関係者に影響を与える形となります。特に、証明書発行によるコストアップ、輸入までにかかる時間の増加は大きなものになりそうです。これまでにも、台湾のスーパーで販売されている食品については、輸入検査による時間が長くなっていくことから、検査が終わった段階で既に食品の消費期限が過ぎている、というケースも発生しています。

当初は、台湾側も、「日本の食品は安全である。」という日本側の認識については、理解を示していました。しかし、今年3月に、輸入が禁止されている福島県産食品が産地偽装のうえ、台湾に流通していたことが発覚し、台湾立法院(国会)で規制の強化を求める声が高まっていたのです。一方で、馬英九総統は福島県産食品の産地偽造が解決した後には、規制の緩和について検討する考えも示しています。

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PESTEL(ペステル)フレームワークによるマクロ環境分析

今回のように、輸入規制されるケースは、台湾ビジネスだけではなく海外ビジネスを試みる日本企業にとっては注意すべき点であるといえます。

海外進出するということは、そのターゲットとする国の環境にうまく適応して、ビジネスを進めていくことを意味します。日本で新規事業を始める以上に、海外でのビジネスは、自分達ではコントロールできない、または不利に働く要素がいくつか存在します。そんなマクロの環境の影響を分析するツールとして、PESTEL(ペステル)フレームワークがあります。

この分析によって、もし自社が海外に進出した場合、自分達はコントロールできない、または不利に働いてしまう環境要素には一体どういったものがあり、どのようなリスクを想定しておかなければならないのかが、一目瞭然になります。

このPESTEL(ペステル)フレームワークでは、国や地域単位のマクロ的な環境において、企業が成功または失敗する影響はどのような力によって決定するのかと考察します。以下の6つの観点から進出する国、地域の環境を分析し、企業にどのような影響を与えるのか、事業開始後どのような変化が想定されるかを考察することができます。

赤やじるしPolitical(政治)
政治的安定、税制、貿易、社会福祉など

赤やじるしEconomic(経済)
ビジネスサイクル、金利、インフレ、失業率、可処分所得など

赤やじるしSocial(社会)
人口分布、ライフスタイル、消費者心理、教育レベル、ライフワークバランスなど

赤やじるしTechnological(テクノロジー)
政府の関心、政府による投入資金、イノベーションのスピード、新技術など

赤やじるしEnvironmental(エコ・グリーン活動)
エコへの関心、エネルギー消費など

赤やじるしLegal(法律)
競争に関する法律、労働に関する法律、消費に関する法律、健康に関する法律など

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日本産食品輸入規制強化から学ぶマクロ環境分析

今回の台湾でのケースはPolitical(政治)における「貿易」、Legal(法律)における「商品に関する法律」、Social(社会)における「消費者心理」の3つの要素が強く関わっていると言えるでしょう。

まず、台湾の消費者心理からすれば、原発事故で汚染されたかもしれない食品が輸入されるということに非常に不安感を持ちます。たとえそれが事実でなかったとしても、東日本大震災により原発事故が発生したという事実と、それらの近隣する地域からの自分たちが口にする食品が輸入されていた、という事実を考えると、不安は全くゼロではないと思うのは当然のことかもしれません。特に台湾では、近年、食品に関する健康志向が非常に高まっているというトレンドもあります。その中で、日本から輸入される食品に対して、ある程度懸念を持つのは仕方ないことです。

これらもひとつの大きな理由となり、台湾政府が貿易に関する規制をするべきだと考え、今回のように、産地証明書の添付の義務付け、特定の地域の食品に関して放射性物質の検査証明書の添付を義務付けるという規制がなされました。

今回の食品輸入規制の教訓を生かして、今後台湾で食品を取り扱う事業をする場合、これら3つの要素(Political(政治)における「貿易」、Legal(法律)における「商品に関する法律」、Social(社会)における「消費者心理」)は、絶対に外して考えることはできない要素ですね。

消費者の健康志向がとても高い台湾では、特に注意して、健康に関する原材料の選定が必要になります。ただ単に価格を安くするだけでは消費者に受け入れられません。それどころか、今は問題がない材料でも将来は規制の対象になるかもしれません。

日本から原材料を輸入する場合は、今後貿易や商品に関する法律がどのように変わっていくのかという事を注意してみていく必要があります。商品の仕入先を複数確保しておく、可能であれば仕入国を日本だけではなく、他国から仕入も考え、他国とのパイプも繋げておくということが必要になってくるかもしれません。

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もちろん、台湾で食品を扱う事業を行う際に、考慮すべきマクロ環境はこの3つだけではありません。例えば、台湾でのエコ・グリーン環境保護の志向はとても強く、多くの人はレストランなどでも、マイ箸を持参し、割り箸を使いません。人によっては、割り箸を大量に置いてあるエコ・グリーン活動への関心が薄いレストランには良い印象を持たないかもしれません。

台湾の教育レベルも非常に高く、大学院で修士号、博士号を取る学生や海外留学をする若者も多いです。彼らは台湾でより給料の高い仕事を求めています。台湾現地で人を雇用する場合、どのような人材が必要か、どの程度までの報酬を与えるべきか考える必要もあります。

問題が起こってから商品を変えようとか、仕入先を変えよう、組織を変えよう、とするのは、時間的にも、予算的にも無理がある話です。重要なのは、進出を考える前にこれらのリスクが影響する要素をしっかりと確認し、それらに対して、自分たちがどのような対処をとることができるのかをしっかりと考えておくことです。

まとめ

点矢印画像台湾政府は東京電力福島第1原発事故で汚染された食品の輸入を防止する策として、5月15日より日本食品に対する新たな輸入規制を強化した。

点矢印画像輸入規制強化では、以下の2点が新たに追加された。(1)岩手県、東京都、静岡県、愛知県、大阪府など一部都府県の水産品や茶類、乳幼児向け食品やビスケットなどには放射性物質の検査証明書の添付。(2)日本から輸入されるすべての食品に都道府県別の産地証明書を添付。

点矢印画像今回の日本産食品の輸入規制強化によって、特に、証明書発行によるコストアップ、輸入までにかかる時間の増加は大きなものになる。

点矢印画像PESTEL(ペステル)フレームワークによって、進出したい国・地域を取り巻くマクロ環境を俯瞰的に見つめる。結果として、政治、経済、社会の変化が今後の企業活動にどう影響を与えるかが見える。

点矢印画像今回の輸入規制強化のケースでは、Political(政治)における「貿易」、Legal(法律)における「商品に関する法律」、Social(社会)における「消費者心理」の3つの要素が強く関わっていると言える。

点矢印画像進出を考える前にこれらのリスクが影響する要素をしっかりと確認し、それらに対して、自分たちがどのような対処をとることができるのかをしっかりと考えておくことが大切。

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